カオスババア③

毎朝、現実を思い出す。

脳出血をしてから、一つだけ毎日続いていることがある。

朝、目が覚める。

そして数秒後に思う。

「あ。」

「あ、そうだった。」

「私、脳出血したんだった。」

一瞬だけ忘れている。

でも、体を動かした瞬間に思い出す。

夢じゃなかった。

現実だった。

この感覚を説明するのは難しい。

記憶が無くなっているわけじゃない。

受け入れていないわけでもない。

ただ、寝ている間だけ普通の自分に戻っているような感覚なのだ。

だから毎朝、一回だけ現実に引き戻される。

「そうか。」

「もう前の体じゃないんだ。」

そんな朝を何百回も迎えてきた。


不思議なのは、麻痺よりもめまいの方が気になること。

左手は思うように動かない。

でも、それは見れば分かる。

だから案外受け入れやすかった。

問題はめまい。

歩ける。

運転もできる。

仕事もしている。

だから周りには分からない。

でも、自分だけは分かる。

「ああ、今日もちょっと揺れてるな。」

そんな小さな違和感が毎日ある。

これが一生続くのかな。

そう思う日は、正直ある。


私は昔の自分に戻りたいとは、もう思っていない。

それは第二話で降参したから。

でも、

落ち込まないわけじゃない。

カオスババアだって人間だ。

調子がいい日もあれば、

「今日は何もしたくない。」

そんな日もある。

昔の私は、

そんな自分を責めていた。

もっと頑張れ。

もっと動け。

もっと早く元に戻れ。

そうやって、自分を追い込んでいた。

でも今は違う。

今日は落ちる日。

それだけ。

明日も落ちるかもしれない。

でも、来週は笑ってるかもしれない。

人生なんて、その繰り返しだ。


脳出血は、私からたくさんのものを持っていった。

でも、一つだけ教えてくれたことがある。

人は毎日同じじゃなくていい。

元気な日もあれば、

動けない日もある。

笑う日もあれば、

泣く日もある。

全部まとめて人生なんだ。

だから今日の私は、

少し落ちていてもいい。

そう思えるようになった。

…とはいえ、早くめまいはどっか行ってほしいけどね。

その日が来るまで、

カオスババアは今日もぼちぼち生きる。

知らんけど。


▶ カオスババアシリーズ

  • 第1話:脳出血
  • 第2話:降参した日
  • 第3話:毎朝、現実を思い出す。

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