「Aya、ミシン室へ行こう。」
脳出血をして、半年。
ようやく運転許可が出た。
ようやく仕事にも戻れた。
「これで元の生活に戻れる。」
そう思っていた。
でも、現実は甘くなかった。
私の仕事は製造ライン。
スピードが命。
周りの人と同じペースで動き続ける仕事だ。
ところが、脳出血の後の私は違った。
頭では分かっている。
でも、体がついてこない。
一つ作業を終える頃には、周りはもう次の工程へ進んでいる。
焦る。
急ぐ。
またミスをする。
その繰り返しだった。

ある日、上司に呼ばれた。
金髪の女性だった。
私は心の中で覚悟した。
「クビかな。」
そう思った。
でも、彼女は静かに言った。
“Aya, you’ve been struggling out here. Let’s move you into the sewing room.”
「Aya、この部署は大変そうだから、ミシン室へ移ろう。」
責める口調ではなかった。
怒ってもいなかった。
ただ、私が働ける場所を探してくれていた。
私は返事をした。
「分かりました。」
そう言ったものの、
心の中では負けた気がした。
製造ラインに戻れなかった。
みんなと同じようには働けなかった。
「私は戦力外なんだ。」
そう思った。
帰り道は、少しだけ泣いた。
でも。
今振り返ると、あの日の異動は救いだった。
ミシン室は座り仕事。
クーラーが効いている。
自分のペースで作業ができる。
めまいも少ない。
体への負担もずっと軽い。
結果として、私は仕事を続けられた。
人は「元に戻ること」が成功だと思いがちだ。
私もそうだった。
でも、本当に必要なのは違った。
今の自分が続けられる場所を見つけること。
それだった。
もし、あの日意地を張っていたら。
「私はラインで頑張ります。」
そう言っていたら。
今頃、仕事そのものを辞めていたかもしれない。
脳出血は、
できないことを増やした。
でも同時に、
「できる場所を探す力」も教えてくれた。
あの日の私は、
ミシン室への異動を敗北だと思った。
でも一年経った今なら言える。
あれは敗北じゃなかった。
生き残るための配置転換だった。
カオスババアは、そう思う。
知らんけど。
▶ カオスババアシリーズ
- 第1話:脳出血
- 第2話:降参した日
- 第3話:毎朝、現実を思い出す。
- 第4話:「Aya、ミシン室へ行こう。」


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