私はシングルアクセルの手前で止まった。
跳べるか、跳べないか。
あの場所は独特だった。
トウループも、サルコウも、
回転は一回転。
でもアクセルは1回転半。
しかも前向き踏み切り。
他のジャンプとは構造が違う。
スピードを殺さず踏み切る勇気。
あそこが壁だった。
私は2年しかやっていない。
小3、小4。
大会にも出た。
下手だった。
でも氷の感覚は、
昨日のことのように覚えている。
横浜へ引っ越した。
それで終わった。
特別な挫折はない。
怪我もない。
燃え尽きてもいない。
ただ、環境が変わった。
それだけで終わった。
でも終わらなかった。
アクセルの手前で止まった時間は、
どこかで凍ったままだった。
だから今でも分かる。
踏み切りの迷い。
エッジの深さ。
飛距離の違い。
身体は忘れていない。
48歳になって、
床でスピンを回した。
5回が限界だった。
でも軸は思ったより安定していた。
脳出血でバランスが落ちたと思っていた。
でも回れた。
未完だったものは、
消えていなかった。
アクセルは跳んでいない。
でもワクワクは残っている。
それで十分だと思った。
この話はAya Story「氷の記憶」シリーズに続きます。


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