【第1話】癒しの工程

退院した瞬間、当事者が世界から消えた

――ヒーリングは、孤立から始まった

退院したら、
少しずつ元の生活に戻って、
前を向いていくものだと思っていた。

でも現実は、真逆だった。

病院を出た瞬間、
当事者の声が、世界から消えた。

脳出血。
命に関わる病気。
ICUにも入った。
なのに、退院した途端、

・情報がない
・体験談がない
・「今」の話がない

あるのは
「よくなってよかったね」
「もう大丈夫だね」
その言葉ばかり。

でも、
私の世界は、まったく大丈夫じゃなかった。


視界がおかしい。
世界が傾く。
右と左が信用できない。
自分の脳なのに、感覚が信じられない。

それを説明する言葉が、どこにもなかった。

ブログを探した。
YouTubeを探した。
何時間も、何日も。

娯楽じゃない。
暇つぶしでもない。

生存確認だった。

「これ、私だけじゃないよね?」
「誰か、同じこと言ってない?」
それだけを頼りに、動画を見続けた。


そこで出会ったのが、
世界はサカサマ!
というチャンネルだった。

タイトルを見た瞬間、
言葉にならなかった。

ああ、これだ、って。

世界がさかさまに見える。
その感覚を、
ちゃんとそのまま言っている人がいた。

希望も、前向きも、まとめもない。
ただ、
「そうなることがある」
「おかしくない」
それだけを、静かに語っていた。

それだけで、呼吸ができた。


ただ、
すぐにDMを送れたわけじゃない。

見るだけで精一杯だった。
言葉を打つ余裕なんて、なかった。

そのまま、時間が過ぎた。

一年半。

それでもずっと、
その動画は見続けていた。


一年半後、
ようやくDMを送った。

「ありがとう」

それだけ。

返事が返ってきた。

その瞬間、
画面の向こうにいた“誰か”が、
同じ地面に立っている人になった。

点が、人になった。

退院後、
長く続いていた孤立が、
少しだけほどけた瞬間だった。


このとき、はっきり分かった。

私は、
前向きになるために発信するんじゃない。

癒すために発信する必要がある。

しかもそれは、
優しいヒーリングじゃない。

一番辛くて、
一番苦しくて、
蓋をしてきたところを
自分でこじ開ける作業。

でも、
それをやらない限り、
私は前に進めない。

そう確信した。


このシリーズは、
成功談でも、回復記でもない。

ヒーリングの記録。

孤立から始まった、
生存後のログ。

これは、その一話目。

ここから先は、
綺麗にはならない。

でも、
嘘にはしない。

それだけは、決めている。


#ヒーリング
#脳出血
#当事者の声
#生存ログ

この話は「ヒーリング|脳出血」カテゴリーにまとめてあります。

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