ここは、
私がいちばん長く、無駄に足踏みしていた場所だった。
何年も抜け出せなかった。
動いていなかったわけじゃない。
考えていなかったわけでもない。
情報は集めていたし、「何かやらなきゃ」と思い続けていた。
それでも、
前に進んでいる実感だけが、なかった。
ずっと詰まっていた。
理由が分からないまま。
今ならはっきり言える。
あれは能力不足でも、努力不足でもない。
前提が、致命的にズレていただけ。
「やるなら稼がなきゃ意味がない」
「形にしなきゃ価値がない」
「ちゃんとできないなら、やらない方がいい」
この思考を、
私は疑いもせず、自分に課していた。
そしてこの前提は、
主婦という立場と、最悪の噛み合わせを起こす。
私は結婚していて、
それ一本で家族を養う必要はなかった。
失敗しても、生活が即壊れるわけじゃない。
方向を変えても、誰かが路頭に迷うわけでもない。
これは「主婦は楽だ」という話ではない。
立場ごとに、背負っているリスクが違うというだけの話だ。
本来なら、
私は一番リスクを調整できる位置にいた。
なのに私は、
最初から「背水で戦っている人」の前提を、自分に被せた。
「結果を出さなきゃ」
「意味ある形にしなきゃ」
「中途半端はダメだ」
安全装置があるのに、
自分で外して戦おうとしていた。
それで動けなかった?
当たり前だ。
今なら分かる。
私は準備していたんじゃない。
準備しすぎる病に、完全にハマっていただけ。
出す前に整えすぎる。
失敗しない形を探し続ける。
「まだ早い」を理由に、動かない。
それを日本では、
慎重、真面目、よく考えている、と呼ぶ。
でも実態は違う。
それはリスク管理じゃない。
行動を避けるための思考癖だ。
怖かっただけだ。
未完成だと思われるのが。
途中だと見なされるのが。
「で、結局なに?」と言われるのが。
でもそれは、
私の弱さじゃない。
日本で長く生きてきただけだ。
抜けた瞬間は、拍子抜けするほど単純だった。
「今すぐ稼がなくていい」
「育てる時間を使っていい」
「失敗しても、誰も死なない」
これを
頭じゃなく腹で理解した瞬間、
体が勝手に動き始めた。
結論。
私はサボっていたわけでも、
覚悟が足りなかったわけでもない。
立場を無視した戦い方を、
自分に強いていただけ。
主婦は、主婦の戦い方でいい。
短距離走をする必要はない。
成果を急ぐ必要もない。
主婦は、
育てる時間を使える側の人間だ。
覚悟が不要だと言っているわけじゃない。
最初から背水でやる必要がないと言っているだけだ。
ここを知らないまま、
「中途半端だ」
「覚悟が足りない」
と自分を叩き続けていた過去の私に、
はっきり言う。
それ、間違ってない。
お前がダメなんじゃない。
ルール設定が狂ってただけだ。
ここは、
本当に早く知っておくべき場所だった。
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